「漁業振興(栽培漁業センターの管理運営等)について」
下関市は、平成17年2月に近隣四町と合併し、人口約296,000人の新下関市としてスタートを切り、同年10月に山口県で初の中核市になったという、函館市によく似た歩みをしている町である。
代表する味覚のふぐは、秋から春の彼岸までと言われているが、養殖技術の発達で、一年中食べる事が出来るようになったと言われている。
調査先の下関市栽培漁業センターは、漁業活性化の柱となる海域特性にあった計画的な漁場づくりを行っている。また、新たな増養殖事業の開発、定着に向け、中間育成施設、実習・実験施設(未整備)、管理施設などを有し、栽培漁業推進の核となる施設である。センターは広く市民にも新しい漁業への取り組みに理解を 深めてもらうために、漁村と都市の交流拠点としての活用も検討し、地域の活性化を図ろうとしている。
建設予定の実習・実験施設では、トラフグ、カサゴ、アサリ、ウニなどの増養殖技術の開発を行うと共に、藻場造成のために用いるワカメ、アラメ、アマモ等の藻類の培養を実施し、アワビ、サザエ、ウニなどのえさとしての生産に取り組むという。
種苗の中間育成については、漁業者の要望に基づき、アワビ、クルマエビ、ガザミを実施している。
山口県では、県と市がそれぞれの役割を分担し、県では種苗の生産、市ではそれを購入し中間育成、放流事業を行っている。県からこれらの種苗を購入し、外敵から身を守れるサイズまで中間育成をし、漁業者の手によって最適な場所に放流することで、持続的に資源を利用することが可能となり、漁家経営の安定が図られ ている。
アワビ、クルマエビ、ガザミはそれぞれ13ミリメートルを1年かけて30ミリメートルまで、13ミリメートルを約1か月で30ミリ メートルまで、ミリメートルを約7日間で11ミリメートまで中間育成し、69円/1個、2.9円/1尾、3.1/1尾で管内漁協に有償配布し、漁業者が適地に放流している。
センターでは、15年度に約854万円、16年度に約1,200万円、17年度に約1,140万円の売り払い収入があったが、17年度には約6,850万円の生産増大効果を見込んでいると言い、その事業効率の良さが伺われる。
- クルマエビについては、100万尾の生産能力があるが70万尾程度に放流を縮小している。全国的に漁獲が少なくなってきている傾向にある。食物連鎖の底辺に位置することから、天敵も多く、放流しても大きくならないなどの悩みを抱えており、今後は放流のサイズ、方法、場所などを県と協議しなければならないと している。また、日本海側では彦島の、瀬戸内海側では宇部などの漁師により、いずれも底引き網で漁獲され、下関市の漁師が困っている現実がある。
- アワビについては、18万個の出荷、放流をしているが、漁獲され市場に出荷された物の約8割が放流したものだとしている。センターが1ヶ69円で漁業者に売り、2~3年で漁獲したものが1,500~2,000円で売れるようになる。センターの売り払い収入約1,200万円のうち9割がアワビである。69円 が高いという漁業者からの声があるが、さらに効率よく漁獲するために、地先によって、潜水して放流するところや、船からばらまく放流などまちまちなので、 最良の方法を指導しなければならないとしている。
- ガザミは、縄張り意識が強く、共食いが激しいため常に数が減っていく。朝、昼、晩と人工餌料をやり、飽食の状態にしておく。追跡調査をしていないが、漁師からは良く捕れるようになった、よく見かけるよ うになったという報告が寄せられている。要望調査などを行う事で、現在の24万尾の放流が今後増えていく傾向にあるという。
- 魚については移動が激しいために、行政と事業者がお金を出し合って広域的に取り組み、地先ごとにトラフグ、マダイ、ヒラメの中間育成を行っている。
- 昔良くとれていたアサリが海がきれいになると同時に捕れなくなってしまった。きれいになったことで代わってハマグリが捕れ始めている。内海でハマグリを放流して試験を行っている。海の状況の変化と共に、適地として育って行くものもある。
研修施設が未整備のため、廊下で立ったままで説明を受けることになってしまい、そのような状況から十分な質疑が出来なく、残念な思いがあった。これらの事業 により受益する漁業者の数や、その年間の水揚げ高等、漁業者の生活実態や、販路や主な消費地。輸入物との競合などあるのか。また今回のテーマに無く調査で きなかったが、彦島漁協の女性を中心とした企業グループ、「漁師のお店、彦島シーレディス」の活動状況にも興味を持った。
市町村合併によって全国でも屈指の水産都市になった函館市にとって昆布は、イカに次いで漁獲金額の約30%(平成16年度)を占める重要な産物であり、養殖昆布がその半数以上を占めている。
主産地である南茅部地域においては、昭和45年に昆布養殖事業が本格化されて以来、漁家経営の安定に大きく寄与している。しかし、毎年のように昆布の芽落ち、穴あき等、原因不明の困難な問題が持ち上がりながら、根本的な解決を見るに至っていない。
当 初から水産庁北海道区水産研究所、北大水産学部、函館水産試験所(普及指導所)の専門知識を有するスタッフのもとで、採苗から生産まで指導を仰ぎながら、漁協自ら種苗センターの運営にあたってきた経緯があるが、最近では、漁協職員相互の採苗技術の継承と、漁業者の経験に頼る養殖事業が繰り返され、学術的な 裏付けや、検証がなされていないのが現状のようである。
昆布養殖事業は、漁業者の減少、高齢化など諸問題を抱えている漁村において、将来的 にはグループでの作業や、年齢に応じた生産活動が出来るなど、きわめて融通の利く事業であり、今後も漁業振興の柱となるものである。それだけに、いま注目を集めているガゴメ昆布の養殖技術の確立による増産対策や有効活用。また、昆布の養殖においても、地球温暖化による海水温の上昇が考えられる中、品種の改 良にもいち早く取り組む事も重要な課題だと思われる。
下関市における、種苗の中間育成の現場を目の当たりにしたとき、もう一度養殖事業の原 点に立ち返り、昆布養殖の根幹に関わる技術支援、指導を行うことの出来る人材や、種苗、採苗のエキスパートの招聘、育成に取り組む事が行政に課せられた課題であり、そのために漁協と協議、連携を深める必要性を痛感したところである。
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