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インクルージョン・トークショー講演録(はこだてインクルージョン交流会)

公開日 2025年12月05日

概要

「はこだてインクルージョン交流会」は,すべての人を社会的孤立や排除から守り,障がいの有無や年齢,性別,国籍の違いを超えて多様性を認め合うインクルージョンの理念の普及を目的に開催されました。本講演録は,イベント内で行われたトークショーの要旨を整理し,函館市が目指す「誰ひとり取り残さないまち」の姿を市民の皆様と共有するために作成したものです。

開催日:令和7年11月1日(土曜日)14時~14時50分

場所:函館市青年センター 体育館(函館市千代台町27番5号)

ファシリテーター

・インクルージョン未来推進機構代表 島 信一朗 氏

(視覚障がい当事者として市内で鍼灸師業を営みつつ,障がい者スポーツや映画祭を通じてインクルージョン社会を推進。地域福祉やバリアフリー化などの功績により,2016年に函館市市民貢献賞,国土交通省バリアフリー化功労者大臣表彰,法務省人権擁護功労大臣表彰,2017年に内閣府障害者関係功労者総 理大臣表彰を受賞。)

 

登壇者

・函館市インクルージョン未来アンバサダー(元パラ陸上アスリート) 辻 沙絵 氏

(函館出身の陸上選手であり、競技を通じてパラスポーツの発展に寄与し,世界大会での活躍は日本中に感動を与えるなどインクルージョンの普及に大きく貢献している。リオデジャネイロ2016パラリンピックで銅メダル獲得,東京2020パラリンピック5位,パリ2024パラリンピック7位入賞。2025年6月1日現役選手を引退し,現在は義肢装具メーカー Össur Japan G.K.にてマーケティング業務を担当している。)

・函館市長 大泉 潤

インクルーシブなまちづくりへの挑戦

 

本トークショーは,形式的な挨拶にとどまらず,参加者がインクルージョンについて考えるきっかけとなる内容から始まりました。進行役の島信一朗氏は,参加者に目を閉じてもらい,会場の各所で鳴らされる拍手の音に耳を傾けるよう呼びかけました。拍手の反響を通じて空間の広がりを感じ取る体験が行われ,視覚以外の感覚を用いた捉え方について共有されました。

 

また島氏は,函館市における取組みに触れながら,「このまちを,インクルージョンについて考える場として広げていきたい」「この場を,参加者の皆さんと一緒にこれからのことを考える時間にしたい」と語り,対話を重ねていく姿勢を示しました。こうした流れの中で,話題は個人の経験へと展開していきました。

 

インクルージョンを考えるための基本的な視点

 

インクルージョンの具体的な取組みについて考える前に,その考え方の土台となる視点を共有することが大切です。一人ひとりの存在を大切にすることや,困難を特定の人の問題としてではなく,誰にとっても身近なものとして捉える視点が示されました。

 

「存在しているだけでいい」という考え方

 

島氏は,インクルージョンの原点について,「存在しているだけでいい」という言葉で表現しました。

この言葉は,成果や能力といった点だけで人の価値を判断するのではなく,誰もがその人らしく存在していること自体が尊重されるべきであるという考え方を示しています。地域づくりの視点においても,このような考え方が,多様な人が共に暮らす社会を考える際の基礎になると紹介されました。

まずは一人ひとりの存在を大切にすることが,互いを尊重し合う関係づくりにつながっていくという点が共有されました。

 

困難を身近な課題として捉える視点

 

また島氏は,「障がい」という言葉の捉え方についても触れ,生活の中で困難や不便を感じる場面は,程度の違いはあっても誰にでも起こりうるものであるという視点を示しました。

この考え方は,誰かを一方的に支える,あるいは支えられるという関係に固定するのではなく,状況に応じて互いに助け合う関係を自然なものとして捉えるきっかけになります。その結果,声をかけ合ったり支え合ったりする行動が,特別なものではなく,日常の中にあるものとして受け止められるようになることが期待されます。

 

困難を前向きな力につなげるという考え方

 

さらに島氏は,個人が抱える困難や課題について,それ自体を否定的に受け止めるのではなく,周囲との関わりの中で別の気づきや役割につながる場合があると述べました。例えば,家族や友人,地域の人とのやり取りを通して,自身の経験を言葉にしたり,他者の立場を考えるきっかけになったりすることがあると紹介されました。

 

インクルージョンは,同じ場所にいることだけを指すのではなく,人と関わる中で相互理解や支え合いが少しずつ広がっていくこととして捉えられる,という考え方が共有されました。

こうした視点は,後に紹介された辻沙絵氏のパラ陸上アスリートとしての競技生活やこれまでの歩みとも重なり,考え方が実際の経験の中でどのように生かされているのかを知る手がかりとなりました。

 

経験から見えてきた支え合いの意識

 

元パラ陸上日本代表の辻沙絵氏が,競技を続ける中で経験してきた出来事や,その中で生まれた考え方の変化について紹介しました。辻氏の話からは,人とのつながりが果たす役割について,さまざまな気づきが示されました。

 

競技に向き合う意識の変化

 

辻氏は,競技に対する向き合い方が,これまでの競技人生の中で変化してきたことを振り返りました。2016年のリオデジャネイロパラリンピック後は,活動の幅が広がる一方,取材やイベント出演などが増え,思うように練習時間を確保できず葛藤した時期があったといいます。

 

辻氏は,競技を続ける中で,一人では乗り越えられないと感じる場面も多くあったと振り返りました。そうした中で,SNSなどを通じて寄せられた「応援しているよ」といった言葉が支えとなり,次第に「自分のために走る」ことから,「誰かと喜びを共有するために走ってもいいのかな」という気持ちへと変わっていったと語りました。

 

この意識の変化が生まれたのは,2020年の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下で,練習環境が大きく制限された時期だったといいます。競技場やジムが使えない中で,それまで恵まれた環境で競技に取り組めていたことを実感するとともに,東京パラリンピックの延期を「準備する時間が増えた機会」と前向きに捉え,改めて世界で戦うための準備を進めようと考えるようになった振り返り,考え方の変化が次の行動につながったことが語られました。

 

選手村での出来事から感じたこと

 

辻氏は,大会期間中の選手村で目にした場面についても紹介しました。食堂で,視覚に障がいのある選手同士が,料理を取る際に自然に声をかけ合い,助け合っている様子を見たといいます。食堂内を誘導や料理の内容を言葉で伝え合うなど,自然なやり取りが行われていたことが印象に残ったと話しました。

 

この経験から辻氏は,特別な場面でなくても,できる範囲で手を差し伸べ合うことが,互いにとって助けになると感じたと述べました。こうした関わり方が,日常の中で無理なく広がっていくことの大切さについて触れました。

このような話を通して,個人の行動や意識の変化だけでなく,それを支える周囲の環境や関係性についても考える視点が示されました。こうした関わりを支えるための環境づくりについて,設備や制度と人の意識の両面から話題が展開されました。

 

社会インフラにおける「ハード」と「ソフト」の視点

 

インクルーシブな社会を考える上では,エレベーターや点字ブロックといった物理的な設備(ハード)と,人々の意識や行動(ソフト)の両面が重要であることが,トークショーの中で話題となりました。このセクションでは,登壇者の発言をもとに,ハードとソフトの関係について共有された視点を整理します。

 

設備の整備と日常の関わり方

 

日本では,バリアフリーに関する設備や制度が比較的整ってきていることが紹介されました。一方で,辻氏が海外で経験したように,見知らぬ人同士が自然に声をかけ合い,必要に応じて手助けをする場面は,日本ではあまり多く見られないと感じた経験も語られました。

 

島氏は,設備が整っていることで安心感が生まれる一方,その結果,人と人との関わりが生まれにくくなる場合があるのではないか,という視点を示しました。ハードの整備と同時に,周囲に目を向ける意識や行動についても考えていくことの大切さが共有されました。

 

日常の中での声かけや配慮について

 

島氏は,優先席などの設備があること自体は重要であるとした上で,それが人の気づきや行動に代わるものではないと述べました。目の前に困っている人がいれば,まず声をかけてみることが,関係づくりの第一歩になることがあると紹介されました。

 

また,場合によっては,すべての障壁を取り除くことよりも,人と人との関わりの中で生まれる助け合いが意味を持つこともある,という考え方も示されました。設備と人の関わりが互いを補い合う関係であることが重要である,という視点が共有されました。

 

次世代とインクルージョンを考える

 

インクルージョンを将来にわたって広げていくためには,子どもたちとの関わり方が重要であるという点についても登壇者の間で話が交わされました。子どもたちの反応や,それに対する周囲の関わり方について紹介します。

 

子どもの問いと周囲の対応

 

辻氏は,公園などで子どもたちから「どうして手がないの?」と聞かれることがあると話しました。辻氏はそうした問いを,子どもたちが初めて「自分と違う誰か」に向き合う大切な瞬間だと受け止めており,その場に立ち会えることをうれしく感じていると語りました。

 

その上で,こうした問いは,違いを知り,受け入れていく自然な入り口であるとし,「世の中にはいろいろな人がいることを知ってもらえたらうれしい」と述べました。

一方で,島氏からは,周囲が配慮から質問を制止してしまう場面もあることが話題に上がりました。その結果,違いについて話す機会が少なくなってしまう場合があるのではないかという視点が共有されました。

 

「違い」への理解を深める機会づくり

 

島氏は,子どもたちが持つ学ぶ力を信頼し,過度に制限するのではなく,経験を通して理解を深めていく過程を見守ることの大切さについて触れました。

また,市長からは,行政として,多様な人と出会い,触れ合うことができる場づくりを進めていくことが重要であると述べました。こうした環境が,子どもたち自身の気づきや理解につながっていくことが期待されます。

 

誰もが暮らしやすい社会を目指して

 

トークショーの終盤では,誰もが排除されることなく安心して暮らせる社会について,登壇者それぞれの立場から意見が述べられました。市長は,「誰もが地域の中で自然に受け入れられる社会を目指していきたい」と話しました。

 

排除を生まないための視点

 

市長は,日常の中での小さなすれ違いや配慮の不足が,関係の分断につながる可能性があることにも触れました。違いを理由に距離を置くのではなく,相手を理解しようとする姿勢を持つことが,社会全体の安定にもつながるのではないかという考えが示されました。

 

共生社会に向けた考え方

 

島氏は,インクルージョンを考える際のポイントとして,次のような視点を紹介しました。

 

インクルージョンの本質には、次の四つの人間観があります。

 

■ ひとりひとりの存在は、皆が等しくかけがえのない大切な存在であること。

■ 人間は皆が違う存在であるということ。だから違いを当たり前のこととして尊重し、ひとりひとりを大切にすること。

■ 人間は決してひとりでは生きていけない存在であるということ。だから誰もが補い合い・支え合い、育み合いながら存在し、同じ場で共に過ごすことが大切なこと。

■ 人間は誰もが繋がりの中で生きていく存在であるということ。

 

繋がりは、優劣ではなく、対等な存在として共生し、人とのつながりを意識することが大切。

これが、『真の共生』です。

 

こうした視点は,特別な取組みとしてではなく,日常生活の中で少しずつ意識していくことが大切であると語られました。

 

※ダウンロード用PDF

インクルージョン・トークショー講演録[PDF:449KB]

 

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