名古屋市の人口200万人突破事業として昭和52年に開館した名古屋市博物館は、開館から40年以上が経過し、建物・設備の老朽化、展示室の狭隘化、陳腐化・収蔵庫の狭隘化・ 機能不足、学習機能の充実・資料の公開、地域の活性化が課題となり、令和4年3月に「名古屋市博物館の魅力向上基本計画」というリニューアル計画を策定した。
リニューアル計画策定にあたり重視した点として、「名古屋の歴史文化から未来をつくる博物館」というコンセプトで新しい取組みの方向性を定め、今まで来館していない層、特に若年者層やファミリー層を戦略ターゲットとして掲げ、多くの方に利用してもらうことを目指した。そのため平成25年には市民の方にモニターになってもらいネット・モニターアンケートを実施したほか、平成29年度には無作為に抽出した市民2千人に調査票を送り、回収したアンケート調査を行い、パブリックコメント、タウンミーティングを開催するなど市民ニーズの把握や反応、意見などを的確に捉え、課題を整理している。本市の総合ミュージアム構想についても、これらのように丁寧な対応が求められる。特に中学生や高校生に博物館の意味や重要性を把握、認知してもらうために子どもたちにもアンケートや意向調査を行うことも重要なことと考える。
名古屋市博物館は教育機関との連携も進んでおり、子どもたちは1人1台あたっているタブレットを使い、博物館の資料を見られるようにしているという点も参考になった。
リニューアルに係る事業費は約170億円で、規模の違いを感じたが、国の補助金は見込めないので市債を充当する形になるということだった。本市の構想の規模は未定だが、今後は財政的な裏付けも重要な課題である。
障がい者や高齢者への配慮については、車椅子用トイレ、多目的トイレ、エレベーター、エスカレーター、スロープの設置、点字ブロックの設置、車椅子の貸出し、観覧料の減免を行っている。また視覚障がい者の方に対し、縄文土器などを触れてもらう体験も行われていた。今後は、障がい者の方の意見も聞きながら制約がある中でも可能な限り進めていくということである。本市の博物館は、老朽化や開館当時は世間のバリアフリーに対する考え方がまだ浅かったということもあり、バリアフリーにはなっていないところも大きな課題であり、今後、障がい者(身体、視覚、聴覚など)の意見も聞くことが重要である。
収蔵庫については、耐火構造となっており、空調・温度・湿度管理は当然のことであり、監視室を設けているほか、停電時に備えて発電室も完備されている。本市の博物館の収蔵庫は、温度・湿度などの空調管理は人的に努力はしているものの、劣悪な環境である。また、名古屋市博物館では、特別展においても来館者数の増へ対策の努力が見られ、国宝や世界遺産などの特別展を行うためには、収蔵庫の環境は非常に重要であることが言える。その点でも、本市の収蔵庫との違いがはっきりと認識できた。早急に改善すべきであると考える。
函館市の総合ミュージアム構想のたたき台では、5施設の統合も視野に入れながら検討を進めるということであるが、今回の調査において博物館本館と分館の統合についても質問があったが、名古屋市では分館には分館の特徴があり特別なもので地元に愛されている施設であり、本館と分館を1つにすることは考えていないということだった。本市も現在、関係団体等から意見を聴取しているところであるが、博物館本館を含む5施設のあり方を丁寧に検証することが重要であるということを感じた。調査を通し今後の総合ミュージアム構想を考える上で非常に参考となった。
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