「『学ばせたい 通わせたい 教育都市としま』の実現に向けて」というテーマで東京都豊島区が実践している「学力向上に向けた取り組み、教育ビジョン」について説明を受けた。 「子どもは社会を映す鏡」と言われるように、教育をめぐる現状は社会の変化とともに大きく変化している。こうした中で、学校におけるいじめや不登校、学力や体力の低下などは、首都圏や地方の別を問わず全国共通の課題となっている。豊島区はこれらの課題に対し、豊島区教育ビジョンを作成し、独自の教育施策を実施し、実を結び始めている。平成28年度全国学力・学習状況調査結果では小学校第6学年・中学校第3学年の平均正答率はともに全国平均を大きく上回った。 以下に具体的な取り組みを述べる。
(1) 小中一貫教育連携プログラム 「小中一貫教育は学びの連続性を大切にする」として、交換授業・小中交流授業・部活動などの小中連携プログラムを実施している。豊島区立小学校は22校、中学校は8校あるが、中学校ブロックごとにテーマを設けている。例えば駒込中学校ブロックは「学習意欲の向上・学習習慣の確立」、西池袋中学校ブロックは「社会を生き抜く力の育成」など各ブロック毎にテーマを決め取り組んでいる。また、小学校入学前の幼稚園保育園との連携プログラムも実施している。こうした取り組みにより、「知徳体の力」が確実に身につくようになっている。
(2) 豊島区独自の学力調査をもとにした授業改善 授業改善に取り組むために、前年度の「授業改善推進プラン」に基づく取り組みの成果や学力調査の結果分析、教員間での課題の共有、学校の学力向上の取り組みや内容が保護者に理解されているかどうかの説明責任などを3段階で評価し、授業改善プランを作成し、実施している。
(3) 教育研究推進校の充実 小学校22校と中学校8校の合計30校を約3年に一度の割合で教育研究推進校に指定し、各学校がテーマを設け学力向上に取り組んでいる。平成27、28年度研究推進校は6校で、そのうちの一校である朝日小学校は「表現する力・考える力を育てる算数科の指導」、また西池袋中学校は「道徳授業の指導と評価の充実」である。
(4) 能代市との教育連携 平成25年1月に秋田県能代市と教育連携を締結し、教員や生徒の相互交流を実施している。年1回、豊島区立小・中学校の全教員を集めて教育フォーラムを開催し、模範授業やシンポジウムを実施している。このことにより、教師の授業力・指導力が確実に向上した。また、豊島区の中学生が能代市でいなか体験をし、能代市の中学生が豊島区にある立教大学の協力を得てイングリッシュキャンプを行うなど、中学生の相互交流が行われている。
(5) 小・中学校補修支援チューター事業 放課後や長期休業期間を利用して、大学生を補修支援チューターとして配置し、基礎学力の定着を図っている。
(6) 学校・地域が連携して、安全・安心な学校づくり~インターナショナルセーフスクール~ 「インターナショナルセーフスクール」とは、WHOセーフコミュニティ協働センターから、より安全な教育環境づくりに取り組む学校に与えられる国際認証で、児童の危険予測回避能力の育成や地域・保護者と連携した子どもの見守り体制を充実させることを目的にしている。国際認証を取得した学校は、平成26年度時点では1校だけだったが、来年度には6校が認証校となる予定である。こうした取り組みにより、朋有小学校では校内のけがが平成24年度は1,111件あったものが、平成26年度には678件と約半減した。
(7) アクティブ・ラーニングの土台をつくる図書館の学習・情報センター化 「本を読む場所としての図書館」から「図書室とICT機器を利用した調べ学習できる部屋」と一新し、「図書館」は今まで以上に楽しく学べる場所となった。また、豊島区立小・中学校全校に学校図書館司書を配置し、学校図書館の環境整備を進め、読書力や国語力等の向上を図っている。
(8) ICT環境の整備 平成25年度まではパソコンルームで学習用パソコンを活用していたが、平成26年度以降はパソコンルームを廃止し、普通教室でいつでもどこでもパソコンを活用した学習ができるように全小・中学校にタブレットパソコンを導入した。また、教職員の事務負担を軽減し、子どもと向き合う時間を確保するため、平成26年度よりデータセンターを立ち上げ、校務支援システムを導入した。
(9) がんに関する教育の推進 日本人の2人に1人が一生のうちにがんになると言われており、がんは日本人の死亡原因のトップとなっている。豊島区では全国初の区立小・中学校で独自教育プログラムを開発し、がんに対する子どもたちや保護者の意識を高め、命の大切さを学ぶ教育の充実を図っている。
(10) ふるさと学習プログラム 豊島区役所新庁舎が平成27年5月にオープンし、新庁舎の10階屋上には、かつての豊島区の自然を再現した「豊島の森」を整備した。ビルの上にあるとは思えない程の自然で埋め尽くされた「豊島の森」で全小・中学校の生徒が「ふるさと豊島区」の歴史や文化を学び、ふるさとに誇りを持ち、世界に発信できる子どもの育成に努めている。
(11) グローバル化に対応した英語教育の充実 豊島区では平成18年度より、全国に先駆けて小学校1年生から英語活動を実施した。また、平成27年度より、幼稚園でも「英語遊び」を導入し、自分が生まれ育った豊島に愛着と誇りを持つとともに、日本語でも英語でも発信できる英語教育を推進している。
(12) 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた教育の推進 全学年で横断的に年間35時間を使い、オリンピック・パラリンピックの精神を学ぶとともに、体力の向上や国際感覚に富む人材の育成と言語コミュニケーション能力の向上に努めている。
豊島区は「教育は、家庭と学校、地域が連携して行わなければならないものであるとの認識に立って、全ての区民が教育に参加すること」を目指している。 担当者からの説明の最後は「子どもに学びがいを、教師に教えがいを、学校に元気を!」という言葉で締めくくられた。 豊島区では上記のようにさまざまな取り組みを通して、子どもたちが自ら学び行動する個性と創造性豊かな人間教育を進めている。 函館市としても豊島区の良い点を取り入れ、子どもの「生きる力」を育む学校教育の推進に役立てていければと強く思った。
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